ボードゲームで『違う楽しさ』を認め合うコミュニケーション術:多様なプレイヤーと心地よく遊ぶためのヒント
ボードゲームの楽しみ方は人それぞれ。その違いが時に生む軋轢をどう和らげるか
ボードゲームは、友人や家族とテーブルを囲み、非日常的な時間を共有できる素晴らしい趣味です。しかし、複数の人が集まって遊ぶ以上、それぞれのプレイスタイルやゲームに対する考え方の違いから、時には小さな摩擦や気まずさを生むこともあります。ある人は勝利を目指して戦略を練ることに熱中し、別の人は物語やロールプレイングを楽しむことに喜びを感じるかもしれません。また、ルールの解釈が異なったり、プレイの速度が違ったりすることも、思わぬ軋轢の原因となり得ます。
こうした状況で、自分がどのように立ち振る舞い、場の雰囲気を円滑に保つかは、ボードゲームの楽しさを左右する重要な要素です。特定の誰かが悪いわけではなく、単に楽しみ方やゲームへの向き合い方が異なるだけです。この「違う楽しさ」を認め合い、受け入れるためのコミュニケーションの工夫は、多様なメンバーがいるグループでボードゲームを長く、そして心地よく続けるために非常に役立ちます。
この記事では、ボードゲーム中に起こりがちな多様なプレイスタイルや言動から生じる軋轢に焦点を当て、それらを和らげ、全員がそれぞれの形でゲームを楽しめる場を作るためのコミュニケーション術について考えていきます。
なぜボードゲームで「違う楽しさ」が軋轢を生むのか
ボードゲームの多様性は魅力の一つですが、それが人々の期待値やプレイスタイルの違いとして現れます。具体的な例をいくつか挙げてみましょう。
- 勝利へのこだわり vs 雰囲気重視: 勝利を最優先するプレイヤーは、効率的なプレイや厳密なルール適用を求めがちです。一方、ゲームの世界観を楽しんだり、冗談を言い合ったりする雰囲気を重視するプレイヤーは、少々の非効率や緩やかなルール適用を許容する傾向があります。この価値観の違いが、プレイ中の発言や行動に対する苛立ちに繋がることがあります。
- 長考 vs テンポ重視: じっくりと最善手を考えたい長考派と、サクサクとゲームを進めたいテンポ重視派。長考が続くと、待っている側は退屈したり焦燥感を覚えたりするかもしれません。
- ルールへの厳格さ vs 柔軟性: ルールブックに書かれている通りに厳密にプレイしたいプレイヤーと、「この場合はこう解釈してもいいのでは?」「面白そうだから今回はこうしてみよう」と柔軟に対応したいプレイヤー。特に曖昧な裁定が発生した場合に意見が対立することがあります。
これらの違いは、プレイヤーそれぞれの性格、経験、ゲームへの慣れ、その日の気分など、様々な要因から生まれます。そして、これらの違いに対する理解や寛容さが不足していると、「なぜそんなプレイをするんだ」「もっと真剣にやってほしい」「せかさないでほしい」といった不満が生じやすくなります。
『違う楽しさ』を認め合うことから始まる円滑なコミュニケーション
こうした軋轢を減らし、場を円滑にする第一歩は、「ボードゲームの楽しみ方は多様であること」「そして、その多様性自体を価値として受け入れること」を自分自身が認識し、可能であればグループ内で共有することです。特定のプレイスタイルを否定するのではなく、「そういう楽しみ方もあるのだな」と理解しようと努める姿勢が重要になります。
自分が「間に入る」立場としてできることは、誰か特定のプレイヤーを擁護したり、他のプレイヤーを批判したりすることではありません。目指すのは、それぞれのプレイヤーが持つ「楽しい」という気持ちや「こうありたい」という思いを、お互いがある程度認め合えるような空気を作ることです。
具体的なコミュニケーションヒント:場面別アプローチ
多様なプレイヤーが心地よく遊ぶためのコミュニケーションは、プレイ前、プレイ中、そしてプレイ後に意識することができます。
プレイ前のすり合わせと雰囲気作り
完全に「すり合わせる」のが難しい場合でも、多様な楽しみ方があることを前提とした声かけは有効です。
- 「今日は初めての人もいるから、ルールはあまり厳密に気にせず、まずはゲームの流れを掴むことを優先しましょうか」
- 「勝敗も面白いですが、今日はみんなでワイワイ話しながら、この世界の雰囲気を楽しめたら嬉しいです」
- 「皆さん、それぞれ得意なことや遊び方があると思いますが、お互いに助け合いながら楽しんでいきましょう」
こうした言葉は、ゲームの目的や場の雰囲気を一方的に決めるのではなく、「今日はこういう方向性で遊んでみませんか」という提案であり、様々なプレイヤーのスタンスを最初から許容するメッセージとなります。
プレイ中の具体的な声かけと立ち回り
軋轢が生じやすい具体的な場面でのコミュニケーション例です。自分が「調整役」となる意識を持つことがポイントです。
- 長考中のプレイヤーへ:
- 「〇〇さん、じっくり考えてるね。大丈夫、待ってるから気にしないで」
- (少し時間が経った場合)「何か困ったことある?ヒントは言えないけど、質問なら答えるよ」
- (休憩を挟む提案)「少し長くなったから、ここで一旦休憩を挟んで飲み物でも取りに行こうか」 長考そのものを否定せず、待っている側の状況を伝えつつ、必要に応じてサポートや休憩を提案するなど、選択肢を与える形で介入します。
- 勝ち負けへのこだわりが強いプレイヤーへ:
- (そのプレイヤーの好プレイに対して)「今のプレイすごいね!さすがだわ」と、成果を認める。
- (負けて悔しがっている時)「うわー、それは悔しいね!でも、このゲームは最後までどうなるか分からないから面白いよね」と共感を示しつつ、ゲーム全体の面白さに目を向けさせる。
- ゲームの展開そのものや、他のプレイヤーの面白い行動などに話題を振る。「さっきの展開面白かったね」「△△さんの〇〇って発想すごいな」など、勝利以外の要素にも価値があることを示す。
- ルールに厳格なプレイヤーと柔軟なプレイヤーの間で:
- 「〇〇さんの言う通り、ルールブックには確かにそう書いてあるね。△△さんの解釈も面白い視点だと思う。一旦、この場では全員が納得できる形で進めるのはどうかな?」「今回はこうプレイして、次回までに正確なルールを確認しておくのはどうだろう?」 どちらかの意見を一方的に採用するのではなく、双方の意見に理解を示しつつ、その場で最も円滑に進められる方法や、将来的な解決策を提案し、合意形成を促します。重要なのは、ルールの厳格さを否定しないことです。
- RPや雰囲気重視のプレイヤーへ:
- その発言や行動に乗ってみたり、肯定的な反応を示す。「今のセリフ、世界観に合ってていいね!」「そういう風に想像すると、このゲームさらに面白くなるね」 彼らの楽しみ方を「ふざけている」「真剣じゃない」と見なす雰囲気を打ち消し、多様な楽しみ方があることを場に示します。
場全体の雰囲気作りとして
特定のトラブル対応だけでなく、日頃から場の雰囲気を良くしておくことも重要です。
- 適度な雑談や笑いを取り入れる。
- 休憩を適切に挟み、集中しすぎる状況を緩和する。
- 誰かの好プレイや面白い言動を積極的に褒める。
- ゲーム終了後に、勝敗だけでなく「今日の面白かったシーン」「初めて知ったルール」「〇〇さんのあの発想すごかったね」など、ポジティブな振り返りを行う。
こうした小さな積み重ねが、多様なプレイヤーがお互いの存在を認め合い、安心してプレイできる「心理的に安全な場」を作り上げていきます。
まとめ:あなたが作る、多様性が輝くボードゲームの場
ボードゲームを友人や家族と楽しむ上で、異なるプレイスタイルや価値観から生じる軋轢は避けられないこともあります。しかし、それは決してネガティブなことばかりではありません。多様な視点があるからこそ、ゲームの新たな面白さに気づいたり、思わぬ展開が生まれたりすることもあります。
大切なのは、その違いを「問題」として排除しようとするのではなく、「多様性」として受け入れ、認め合うことです。そして、あなたが「調整役」や「潤滑油」となる意識を持つことで、その場全体のコミュニケーションをより円滑にすることができます。
今回ご紹介した具体的な声かけや立ち回り方は、あくまで一例です。状況やメンバーに合わせて最適なコミュニケーションは変化します。しかし、「違う楽しさ」を認め合い、お互いの存在を尊重するという根本的な姿勢は、どんな状況でもボードゲームの場をより豊かで心地よいものにしてくれるはずです。あなたが少し意識するだけで、皆のボードゲーム時間はもっと『ワイワイ』とした楽しいものになるでしょう。