ボードゲーム中の『遊び方のズレ』を埋めるコミュニケーション術
ボードゲームは、共通のルールのもと、参加者それぞれの個性や考え方が交差する楽しい時間です。しかし、その「個性や考え方」が「遊び方」の違いとして現れたとき、予期せぬ軋轢が生じることがあります。例えば、じっくり考えて最善手を探したい方もいれば、気軽に直感でプレイして場の雰囲気を楽しみたい方もいます。勝利を追求することに情熱を燃やす方もいれば、負けても笑い飛ばせる気楽さを好む方もいます。ルールの解釈一つをとっても、厳密性を重んじるか、あるいはその場の流れを優先するか、意見が分かれることがあるかもしれません。
このような「遊び方のズレ」は、悪意から生じるものではなく、ゲームへの向き合い方や楽しみ方が人それぞれ異なるために起こります。しかし、このズレが原因で場の空気が悪くなったり、せっかくの楽しい時間が気まずくなってしまったりすることは避けたいものです。
本記事では、ボードゲーム中に生じやすい「遊び方のズレ」に焦点を当て、その背景にあるものを理解し、建設的なコミュニケーションを通じてより円滑で楽しい場を作るためのヒントを探ります。
なぜ「遊び方のズレ」は軋轢を生むのか
ボードゲームはインタラクションの連続です。自分の行動が他プレイヤーに影響を与え、他プレイヤーの行動も自分に影響を与えます。この相互作用の中で、それぞれのプレイヤーが持つ「ボードゲームとはこうあるべき」「楽しいプレイとはこうだ」という無意識の前提が表面化します。
長考するプレイヤーに対して、「もっとサクサク進めたいのに」と感じる。勝ち負けにこだわりすぎるプレイヤーに「そんなにムキにならなくても」と思う。逆に、適当にプレイしているように見えるプレイヤーに対して「真剣にやってほしい」と感じる。ルールの解釈で揉めて進行が止まる。これらはすべて、各プレイヤーの「遊び方の前提」が異なり、それがコミュニケーションや進行に影響を与えることで生じる摩擦です。
これらの摩擦は、プレイヤー間のゲームに対する期待値や目的のズレから発生することが多いと言えます。勝利を目指す、物語を楽しむ、友達とのおしゃべりを楽しむ、新しい戦略を試す、純粋にパズルを解くように考える、など、ボードゲームに参加する目的は多様です。これらの多様な目的やプレイスタイルがあることを理解し、尊重する姿勢が、軋轢を減らす第一歩となります。
「遊び方のズレ」へのコミュニケーションによる対処法
具体的な「遊び方のズレ」の場面ごとに、どのようなコミュニケーションが有効かを考えてみましょう。
1. 長考するプレイヤーへの対応
長考は、ゲームの流れを一時的に止めるため、他のプレイヤーを待たせてしまう可能性があります。待つ側としては、退屈に感じたり、ゲームへの集中が途切れたりすることがあるかもしれません。
- 背景の理解: 長考するプレイヤーは、多くの場合、真剣にゲームに取り組んでおり、最善の手を尽くしたいと考えています。場の空気を悪くしようと考えているわけではありません。
- 有効なコミュニケーション:
- 長考が始まったらすぐに催促するのではなく、まずは少し待ってみます。
- 時間を要しているようであれば、「大丈夫?急かしてごめんね、何か詰まってる?」など、気遣いの言葉をかけつつ状況を尋ねてみるのが良いでしょう。
- もしそのゲームが時間制限を設けていない場合でも、「〇〇分くらいで決められたら嬉しいな」など、やんわりと目安を伝えることも検討できます。ただし、これはゲーム前の合意があるか、場の雰囲気を損なわないように慎重に行う必要があります。
- ゲーム開始前に「このゲームは考える要素が多いから、じっくり考える時間も楽しもうね」「皆でワイワイ、あまり考えすぎずに直感でいこうか」など、ゲームの性質やその場の雰囲気に合わせたプレイスタイルの目安について軽く話し合っておくことも有効です。
2. 勝ち負けへのこだわりが強いプレイヤーへの対応
勝利に強くこだわるあまり、他のプレイヤーのミスを厳しく指摘したり、過度に悔しがったりする姿は、場の雰囲気を重くすることがあります。
- 背景の理解: 勝ちたいという気持ちは、ゲームを楽しむ大きな原動力の一つです。彼らにとっては、勝利への過程や結果こそがゲームの醍醐味なのかもしれません。
- 有効なコミュニケーション:
- 彼らの勝利への意欲を否定せず、「すごい真剣だね!」「〇〇さんらしいね」など、その情熱自体は受け止める姿勢を見せます。
- ただし、他のプレイヤーへの攻撃的な言動が見られる場合は、「ナイスプレイ!」「惜しかったね!」など、ポジティブな声かけで他のプレイヤーをサポートしたり、場の空気を和らげるコメントを意図的に増やしたりします。
- ゲーム終了後、「今日は〇〇さんが強かったね!次はどうかな?」など、結果をたたえつつも、次への楽しみにつなげるような話題で、過度なこだわりに終止符を打つように促します。
- ゲーム選択の際に、競争要素の強いゲームだけでなく、協力ゲームや気軽に楽しめるパーティーゲームなども提案し、多様な楽しみ方があることを共有する機会を作ることも有効です。
3. ルール解釈で厳密すぎる・あるいは大雑把すぎるプレイヤーへの対応
ルールの隅々まで正確にプレイしたいプレイヤーと、少々の曖昧さは許容してテンポ良く進めたいプレイヤーの間でも、軋轢は生じ得ます。
- 背景の理解: ルールを厳密に守りたいのは、ゲームデザインへのリスペクトや、公平性を保ちたいという思いからかもしれません。一方、大雑把なのは、ルールに縛られすぎず自由に楽しみたい、あるいは細かい部分に気が回らないだけかもしれません。
- 有効なコミュニケーション:
- ルールで意見が分かれた場合は、まずは落ち着いてルールブックを確認することを提案します。「ここはルールブックでどう書いてあるか見てみようか?」といった建設的なアプローチが良いでしょう。
- ルールブックの解釈が難しい場合や、ゲームの進行を優先したい場合は、「今回はこの解釈で進めて、次回までに調べておこうか」「今回はこうするけど、本来は違うかもね」など、一時的な合意を形成することを試みます。完璧な解釈よりも、皆が納得してゲームを続けられることを優先する視点も重要です。
- ハウスルール(公式ルールとは異なる、参加者間の合意による特別ルール)を設けることも選択肢の一つです。ゲーム開始前に「このゲーム、ここは難解だから、こういう風にしようか」など、皆で話し合って決めておくことで、後からの揉め事を防げます。
円滑な場を作るための全体的なコミュニケーションスタンス
特定の場面だけでなく、常に意識しておきたいコミュニケーションのスタンスがあります。
- 相手の意図を善意に解釈する: 長考も、こだわりも、ルールへの言及も、多くの場合、プレイヤーなりにゲームを楽しもうとした結果です。まずは「悪気があるわけではないだろう」という前提で受け止めることが大切です。
- 「私メッセージ」を心がける: 相手の行動を非難する「あなたメッセージ」(例:「なんでそんなに遅いの?」)ではなく、自分の感情や状況を伝える「私メッセージ」(例:「少し時間がかかると、次の手番を考えるのが難しくなるな」)を使うことで、相手を攻撃することなく要望を伝えることができます。
- 傾聴と共感: 相手の言動に対して、頭ごなしに否定せず、「〇〇さんはそう感じるんだね」と一度受け止める姿勢を見せます。完全に同意できなくても、相手の視点を理解しようと努めることは、対話の扉を開きます。
- ユーモアを取り入れる: ピリついた雰囲気になりそうな場面では、適度なユーモアや軽いジョークが場の緊張を和らげることがあります。ただし、相手を馬鹿にしたり、攻撃したりするようなユーモアは逆効果です。
- ゲーム前の「グランドルール」設定: ゲームを始める前に、「みんなで楽しむことを一番にしよう」「長考は〇〇分まで、とか目安を決める?」「ルールは公式に従うけど、微妙な時は話し合いで決めよう」など、簡単な共通認識を話し合っておくことは、後々のトラブル予防に非常に有効です。これは、あなたが積極的にファシリテーターとして介入できる部分でもあります。
まとめ:多様な「遊び方」を受け入れ、共に楽しむ
ボードゲームにおける「遊び方のズレ」は、プレイヤーの個性やゲームへの向き合い方の多様性から生まれます。これを単なる問題と捉えるのではなく、「皆で一つの体験を共有しながら、互いの違いを知る機会」と捉え直すことも可能です。
重要なのは、特定の「遊び方」を否定するのではなく、多様なスタイルが存在することを認め、それを受け入れ、その中で皆が気持ちよくプレイできる共通の着地点を見つける努力をすることです。今回ご紹介した具体的なコミュニケーションのヒントや全体的なスタンスが、あなたのボードゲーム時間をより豊かなものにする一助となれば幸いです。
軋轢を恐れず、対話を通じて互いを理解し、多様な「遊び方」が共存するワイワイ楽しいボードゲームの時間を作り上げていきましょう。