ボードゲームでの人間関係を円滑に:ファシリテーター的コミュニケーション術
多様なプレイヤーと楽しむために:ファシリテーションの視点
家族や友人と囲むボードゲームの時間は、日々の喧騒を忘れさせてくれる楽しいひとときです。しかし、参加者のプレイスタイルや性格が多様であるほど、思わぬコミュニケーション上の課題に直面することもあるかもしれません。例えば、じっくり考えたいプレイヤーの長考、勝利への強いこだわりから生まれる言動、ルールの解釈を巡る厳密すぎる議論など、これらが場の雰囲気をぎくしゃくさせてしまう可能性もゼロではありません。
せっかくの楽しい時間が、こうした小さな軋轢によって損なわれてしまうのは残念なことです。特に、あなたがその場にいる友人たちの共通の知人であったり、ゲーム会を企画する立場であったりする場合、自分が間に入って雰囲気を良くしたい、と感じることもあるのではないでしょうか。
この記事では、ボードゲームをより円滑に、そして参加者全員が気持ちよく楽しめるようにするための「ファシリテーター」的なコミュニケーション術について考察します。ファシリテーションと聞くと難しく感じるかもしれませんが、これは特定の誰かが進行役を担うというよりは、それぞれのプレイヤーが少し意識することで、場全体のコミュニケーションの質を高めようとする考え方です。ボードゲームにおける「人間」と「コミュニケーション」に焦点を当て、具体的なヒントをご紹介します。
ボードゲームにおけるファシリテーションとは
一般的にファシリテーションとは、会議などで参加者の活動を促進し、合意形成や相互理解を助け、より効果的な進行を支援する技術や役割を指します。これをボードゲームの文脈に置き換えてみましょう。
ボードゲームにおけるファシリテーション的な視点とは、単にゲームのルールを説明したり、時間を管理したりすることだけを指すのではありません。それは、以下のような働きかけを通じて、その場にいる多様なプレイヤーが等しくゲームの時間を楽しめているか、人間関係が円滑に保たれているか、といった点に配慮し、促進することです。
- 参加者同士の相互理解を深める
- 建設的なコミュニケーションを促す
- 感情的な対立を避ける、あるいは解消する
- 全員がゲームに「参加できている」感覚を持てるようにする
- ゲームの目的(勝ち負けだけでなく、その場の「楽しむ」という目的)を共有・維持する
これらの働きかけは、特定の誰か一人が担う必要はありません。参加者それぞれが少しずつ意識するだけで、場の空気は大きく変わる可能性があります。
具体的なファシリテーター的コミュニケーション術
では、具体的にどのようなコミュニケーションを心がければ良いのでしょうか。ペルソナの課題に触れながら、実践的なヒントを探ります。
ゲーム開始前の準備と声かけ
ゲームが始まる前の準備段階は、その後のプレイを円滑に進める上で非常に重要です。
- ゲームの「目的」を共有する: 「今回はみんなでわいわい楽しむのが目的だから、勝敗にはあまりこだわらずにいこうか」「このゲーム初めての人もいるから、まずは雰囲気を掴むことを優先しよう」など、ゲームの前にその会で何を目指すのか、という暗黙の了解を擦り合わせるような声かけをしてみましょう。これにより、勝ち負けに固執する人、気軽に楽しみたい人など、多様な目的意識を持つプレイヤー間のギャップを少し埋めることができます。
- ルールの不明確さをどうするか話し合う: ゲームによってはルールの解釈が曖昧な部分があったり、プレイ中に疑問が生じたりすることがあります。事前に「分からないことが出てきたら、みんなで相談して、今回はこうしよう、と決めながら進めようか」「公式のQ&Aを見るか、多数決にするか、どうしようか」など、疑問が生じた際の対処法を軽く決めておくと、後々の無用なトラブルを防げます。完璧なルール適用を目指すのではなく、「楽しく遊ぶ」ための落とし所を探る姿勢が大切です。
プレイ中の状況に応じた声かけと立ち回り
プレイ中に起こりがちな特定の状況に対して、ファシリテーター的な視点からの声かけや立ち回り方を考えてみましょう。
- 長考しているプレイヤーへの配慮: じっくり考えるプレイヤーは、ゲームを深く楽しもうとしています。しかし、その長考が続くと他のプレイヤーが手持ち無沙汰になったり、集中力が途切れたりすることもあります。このような場合、「〇〇さん、悩ましい場面ですね。もしよかったら、皆さんも少し休憩がてら雑談でもしましょうか」「時間が必要でしたら遠慮なく言ってくださいね。他の人は少し飲み物でも取りに行こうか」など、長考そのものを否定せず、その上で場の流れを調整するような声かけが有効です。タイマーを使う場合は、「あくまで目安だけど、少し時間を測ってみようか」と柔らかく提案するのが良いでしょう。
- 勝ち負けへのこだわりが強いプレイヤーとのやり取り: 勝利を目指すことはボードゲームの醍醐味の一つですが、それが過度になると、他のプレイヤーへの攻撃的な言動や、負けた際の不機嫌さにつながることがあります。このようなプレイヤーに対しては、勝利以外のゲームの魅力に目を向けさせるようなポジティブなフィードバックを意識してみましょう。「その手、面白い発想ですね!」「次はどんな展開になるか楽しみだ」「このゲームのアートワーク、やっぱり良いですよね」など、プレイの過程やゲームそのものへの言及を増やすことで、勝ち負けだけに囚われない視点を促します。また、ゲーム終了後には勝者を讃えるとともに、「今日のこのシーンが面白かったね」といった形で特定のプレイや展開に焦点を当てることで、結果だけでなくプロセスを楽しむ雰囲気を作ります。
- ルールの厳格さを巡る議論への介入: ルールを厳密に守ることは重要ですが、それが行き過ぎてプレイが中断したり、雰囲気が悪くなったりすることもあります。特に初心者がいる場合など、完璧なルール適用よりもスムーズな進行が優先されるべき場面もあります。議論が白熱しそうになったら、「ルールは大事ですが、まずはゲームを止めずに進めることも考えましょうか」「今回の会では、一旦このような解釈で進めるということで良いでしょうか?」と、一時的な解決策やその場の合意形成を促します。過去の経験に基づき「以前こういう時があって、その時はこう解釈したんです」と提案するのも一つの方法です。重要なのは、どちらが正しいかを決めつけるのではなく、皆が納得してゲームを続けられる状態を作ることです。
ゲーム終了後のコミュニケーション
ゲームが終わった後も、円滑な関係性を保つためのコミュニケーションは続きます。
- ポジティブな感想を共有する: ゲームの勝敗に関わらず、「面白かったね」「〇〇さんのあのプレイがすごかった」など、楽しかった点や印象に残ったシーンについて積極的に話しましょう。これにより、勝者も敗者も、ゲーム全体をポジティブな思い出として共有できます。
- 次の機会に繋げる声かけ: 「またぜひこのゲームで遊びたいね」「次は違うゲームもやってみようか」といった未来に向けた声かけは、関係性を維持し、次の楽しい時間への期待感を高めます。
あなた自身がファシリテーターとして意識すること
自分がファシリテーター的な役割を担う上で、いくつか意識しておきたい点があります。
- 完璧を目指さない: 全員が100%満足する場を作るのは難しいことです。多少の課題はつきものだと割り切り、できる範囲で最善を尽くすというスタンスが大切です。
- 公平性を意識する: 特定のプレイヤーを贔屓せず、全員に対して敬意を持って接することを心がけましょう。ルールの解釈などで迷った場合も、感情ではなく客観的な視点を保つよう努めます。
- 自分自身も楽しむことを忘れない: ファシリテーションはあくまでゲームを楽しむための手段です。自分が過度に気を使いすぎて疲れてしまっては本末転倒です。自分自身もプレイを楽しみつつ、自然なコミュニケーションの中で場を円滑にする意識を持つことが理想です。
- 場の空気を読む: 今、場の雰囲気がどうなっているか、特定のプレイヤーがどう感じているかなど、注意深く観察する意識を持つことが重要です。これにより、問題が大きくなる前に早期に気づき、適切な声かけを行うことができます。
まとめ
ボードゲームは単なるゲームではなく、参加者同士のコミュニケーションを通じて楽しむアクティビティです。多様なプレイヤーが集まる場では、プレイスタイルの違いから生じる小さな軋轢が避けられないこともあります。しかし、それぞれのプレイヤーが少しだけファシリテーター的な視点を持ち、相手を尊重し、場の空気を読みながらコミュニケーションを工夫することで、多くのトラブルは回避でき、より快適で楽しい時間へと変えることができます。
この記事でご紹介した具体的なコミュニケーション術は、あくまでヒントの一つです。大切なのは、目の前にいる「人」に関心を持ち、皆で楽しい時間を作りたいという思いを持つことです。少しずつでも実践することで、きっとあなたのボードゲームの時間は、より豊かで円滑なものになるでしょう。さあ、次回のボドゲ時間から、少しだけファシリテーターの視点を取り入れてみませんか。